講座生の声 vol.3 助産師の現場から
陣痛開始から20時間ほど経った頃、赤ちゃんが下降し、いよいよお産となりました、しかし、次の問題発生です。11時、子宮口が全開し、排臨した頃赤ちゃんが最後に通過する会陰にピアノ線のようなラインが現れてきたのです。井本先生から伺った「会陰を持ち上げなさい」という言葉が浮かび、スタッフに指示し、持ち上げてもらったのですが、変化がありません。私は滅菌手袋をしながらお産介助をしていたので、不潔にならない様配慮し、恥骨を両側から包み込み、必死に持ち上げようとしました。
しかし変化を感じません。「これは違う」と両側から掴み、お臍の方向に力を向けたとたん、大きく変化したのです。先程まできつく締まっていた会陰がぽかんと開いたと思った瞬間、ピロローンと一気に伸びたのです。あたかも顎が外れたかのように…。スタッフ4人があっけにとられている間に、するすると、3600ℊの元気な女の子が、誕生しました。最後は初産と思えない程のスムーズなお産となりました。
片付けを終え、ホッと一息着いたところ、「見た?見た!」と全員が話し始めました。会陰が一気に伸びるなんて、今まで何百、何千の出産を経験しましたが、今まで見たことがありません。時間が経ってもこの光景が忘れられず、繰り返し思い出しては話題にしてしまうほどでした。
恥骨を上げるというのは、物理的に力を加えるのではなく、力学的に力の加わる方向を変えるという事だと体感しました。産道にかかる力を取り除き、産道裂傷を予防できることを学びました。
連日、経験のない状況のお産ばかりでしたが、助産師として他では学ぶことのできない力学的思考と、技術を学べることに日々感謝しています。
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