門下生を卒業して

服部玲子さん(井本整体体操指導者)

井本先生のもとで過ごした時間

 整体を体で覚えよう、生活を共にすることで空気を感じとり身につけよう、と井本先生のもとで門下生として学ばせて頂いた3年半。毎日の生活の中に機・度・間が含まれ、先生の動きの流れをジャマしないよう行動します。ご自宅を出てから車で1時間かけて道場に向かい、患者さんと接し、またご自宅に戻ってさまざまな支度をする。具体的な技術の練習をする機会は一見少ないようですが、ひとつひとつが整体の連続です。ドアの開け閉め、歩き方、挨拶の仕方にはじまり、患者さんへの体操指導の仕方、操法中の、一言二言の言葉かけに含まれる心理指導の大切さなど…たくさんの貴重な経験とご指導をいただきました。


 印象に残っている事はたくさんあるのですが、ある日、年配の女性が転んで顔に傷と痣をつくり、腫れあがった状態で、急患で来室されたことがありました。

 女性は体を小さく硬くして、肩を落とし顔を隠す様に少しうつむきながら操法室に入っていかれましたが、その時の先生の第一声が「おう、おう。美人が台無しじゃのう〜」優しい表情でおっしゃいました。その瞬間、その方の内側からフワツと緩んでいくのを感じました。患者さんとの深い繋がりがあるから言葉が中に浸透するわけで、私が同じことを言っても薄っぺらく全く響かないのは百も承知だけれど、整体ってすごいなと思ったのと同時に、信頼を構築していこうと強く思った瞬間でした。

 操法室の横の体操室で患者さんの体操の誘導をさせていただくのですが、全てが勉強。体操室と操法室の間はふすまで一部仕切られているだけなので、操法をされながらも、いつも先生がこちらに気が飛ばしてくださっているのを感じます。そして、要所要所で一言二言だけ、先生から注意をいただき、ハッとする事が何度もありました。


門下生卒業、そして初めての往診

 昨年の4月半ばに門下生を卒業しました。「さて、どう開業しようか…」大きな峠を越える前のように、その先がどうなっているのかまったく見えず不安になる時もあったけれど、先生から頂いた教えをもとに、とにかく前に進もうと思いました。

 「最初は、往診から始めなさい」と先生からお言葉をいただいていた。知り合いに、山口での修行を終え関東に戻り、これから開業していこうと思っていることを伝えると、ポツリポツリと往診して欲しいと連絡が入った。初めての往診、「礼儀と作法がないと相手の中に入れない。相手とひとつになった時、気が通る…」緊張しながらメモしたノートを読み返す。徳山室で、操法室に入る患者さんと退出する患者さん、そして内玄関から出てお帰りになる患者さんのお辞儀がそろった時の、あの絶妙な気が通った感覚を何度も思い出しながらお宅に向かい、未熟ながらも一生懸命、操法をしました。

                (中略)

ひとりではないということ

 外に出てみて、いかに先生に守られて整体を学ばせていただいていたか、患者さんに育てていただいていたかを感じます。大海原にひとり船出する気持ちでしたが、ひとりではないことに気づきます。道場では講師の先生方が疑問に応えてくださいますし、道場生も患者さんをご紹介くださいます。同じ地元でワークショップを企画開催されている道場生の方もいて、微力ながら参加させていただき、たくさんの方に人体力学体操をお伝えする経験を積ませていただいてます。特別セミナーでは、徳山からわざわざ足を運んでご参加いただいている患者さんが、温かく声をかけてくださいます。そして何より、井本先生が気をかけてくださいます。

 まだまだ未熟者ゆえに、頂いたご恩の1%もお返し出来ていないのですが、今はとにかく、ひとつひとつのご縁を大切に、おひとりおひとりのお体を丁寧に診させていただくことに、集中しようと思っています。そして、整体の楽しさを、ひとりでも多くの人に伝えていきたいと思います。先生から頂いた次の言葉を思い出しながら。

『限られた時間の中であばれなさい。

つちかったものを出しなさい。

挑戦しなさい』

(人体力学・井本整体 機関誌「原点」2020年1月号より 一部抜粋)


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